2011年9月13日火曜日

米澤穂信の『儚い羊たちの祝宴』はメイド萌えな百合小説

オススメ!(イイ笑顔で)

表紙の裏には、

夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。

こう書いてあるんだけど。うん。大嘘。暗黒ミステリはないっすわ。書いてる本人も、そうは思ってないんじゃないかな。

最後の一行にこだわったミステリ――というのが、たしか売り文句だったと記憶してるけど、その文句から期待するような話でもない。収録された連作短編のそれぞれには、たしかに最後に「オチ」がついていて、実際それらは本当に「黒い」。が、どっちかといえば、それはブラックジョークを目にしたときのような「笑い」を呼び起こす類のもの。本当に、「にやっ」、と愉快な気持ちになるようなひっどい黒さで、これだけでも最高に面白い。

んだけど。

 

メイドが毎回出てくるんだよね。

で、なんか、そこに、フェチっぽいものを感じるんだよ。

 

「あの」

 わたしのような仕事をする者は、いかなるときも差し出がましくあってはなりません。作法を外れないよう、控えめに申し出ます。

「もし、このあたりを捜されるようでしたら、皆さまに飛鶏館をご提供できないか辰野に諮ることはいたしますが、わたしでお役に立てますでしょうか。

(中略)

 どうやら迂遠な物言いをし過ぎたようです。わたしは小さく咳払いして、言い直しました。

「中に入ってお休みいただけるよう、主人に尋ねてみましょうか」

 

フェチっぽい、と俺がいうのが、わかってもらえるでしょーか。外部の人間に対して主人を「辰野」と呼び捨てにできるメイド、っていうのが、フィクションにおいてはあんまりいないしさ。なんか、ここ、すっごく、こだわって書いてらっしゃるようにみえませんか。

……いや、この短編にだけ一回でてくる、っていうんだったらここまで言わないけど。でもね、この話ね、メイド、超出てくるの。で、毎回毎回メイドが超ストイックなの。「職務に忠実な使用人」に対する愛が、滾り迸ってなう。

で、そうしたキャラクタの記号というのは得てして「機械的でクール」というところに閉じ込められてしまいがちなのだけど、そうはなっていない。俺が萌えを感じるのは、「体温のある人間が」、「実際の自分の欲望とは切り離されたところで」、職務に忠実であり、その忠実であることの精度が高い、という点なのだと思う。

で、なかんずく凄まじいのが五つの短編中、四つ目に収録されている『玉野五十鈴の誉れ』。これの何が凄いって、オチが収録されてる短編のなかでも格段に暗黒。「うははは」って声だして笑っちゃうレベルのブラックさで、メイドのストイックさも随一。で、百合。誰がなんといおうとこれは作者が明らかに意図して百合

 

しかも、すっげー萌える。

 

ぶっちゃけジャンルとして百合萌えはあんまり興味がないというか、百合を前面にプッシュしてくる作品はむしろ積極的に敬遠する傾向があるくらいなんだけども、これはいい百合。クールだ。

あと目立つ点としては、伏線のマニアックさにぶっちゃけペダンチックなところがある。俺は正直まったくわからなかったんだけど、この辺は全然スルーしちゃっても問題なかった。メイド萌えっていったけど、この辺りはミステリとか物語とか本に対する著者のフェティシズムが感じられて、心地いい。

この人の作品はシリーズもノンシリーズもけっこう読んでるんだけど、かなり好きな方に入る本となりました。いい出会いであった。

 

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